トスカーナのサンガルガーノ修道院
夏には野外コンサートが催される
窓から覗く空の蒼
無限回廊
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自分の宝を地上にたくわえるのはやめなさい。
そこでは虫とさびで、きず物になり、また盗人が穴をあけて盗みます。
自分の宝は、天にたくわえなさい。
そこでは、虫もさびもつかず、盗人が穴をあけて盗むこともありません。
あなたの宝のあるところに、あなたの心もあるからです。
新約聖書 マタイの福音書 6章19-21節
風景を見出し、時を見出す旅はセンシュアリティを涵養する格好の場です。さらに旅先では必ず、気のいい場所、パワースポットに出かけるわたくしでありますが、外さないようにしているのが教会です。気がいいというのは、人々が日々祈りを捧げているからというよりも、信仰の場所、人々が昔から集い祈るところは、その土地で一番パワーのある場所に造るものだと考えられるからです。
ぶどう畑に覆われたブルゴーニュのなだらかな起伏の中に、ヴェズレーというマグダラのマリアゆかりの土地があります。そこにある聖マドレーヌ寺院は山頂のやはり風通しのよい、心地良い場所に建てられ、ロマネスク建築の傑作として、詩人ポールクローデルやロマン・ロランらに絶賛されました。この寺院で特筆すべきことは、夏至の日の午後2時(ユリウス暦の正午)になると丸い高窓から注ぐ陽光が祭壇への道に一直線に並ぶことです。この光の中を歩くと願いがかなうと今でも信じられていますが、いにしえの巡礼者たちは、神の奇跡(軌跡)を目の当たりにしたのではないかと想像されます。
神の奇跡とはいわずとも、夏の教会で聴くバロック音楽やパイプオルガンの響き、あるいは天使のような歌声で奏でられるミサ、ステンドグラスの採光と石造りの空間によって感応性は一気に高まります。マドレーヌ寺院の場合、その奇跡の表情は余りにも鮮やかです。
今まで数多くの廃墟を巡りましたが、中でも、ノルマンディにあるフランスで最も美しい廃墟と呼ばれているジュミエージュ修道院、そしてタルコフスキーの「ノスタルジア」のラストシーンのズームアウトで知られるイタリーのトスカーナにあるサンガルガーノ修道院がとても印象的でした。この二つの壮大な建物は、ともに歴史に翻弄され、略奪や自然の風化などで天井部分がすっかり落ち、側面だけが残っています。
その場所で暮らしていたいにしえの修行者たちの姿はなく、建物自体はまったく現実の機能とは無縁な廃墟ですが、その絶対的な空無の美しさによって人の心を掴んではなしません。また、聖堂の天井は崩れ落ちています。しかし、天空に通じているという開放性、無機的な滅びの表情が人を惹きつけてやまないのです。
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