Dr.MANAの南仏通信?フランスのエスプリをご一緒に…?
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<実録> 目の冒険(その3)・術後半年にして慧眼す(2024.05.22)


加齢による白内障といってもさほど進んではいなかった。それでも、老メガネをかけた際に襲ってくる眩暈(めまい)と嘔吐感に抗し難く、私は手術を選択し、眼内多焦点レンズを入れて、自ら人体ハイブリット化の道に一歩踏み込んだのである。そこまでは、既報(*その1その2)の通り。



3ヶ月経つと、点眼も朝夕1種類のみをとなって、いろんな制約はなくなった。するとフシギが起こった。ラクダの睫毛(まつげ)が、術前の(長さと密集度を持った)普通の睫毛に戻ってしまったのだ。1日6回点眼という「砂漠の砂嵐」の如き環境激変に、睫毛が対応して長い睫毛となっていたのか!
しょうがないから、以前のままの睫毛エクステを復活した。自毛の時に楽しんでいたカラーマスカラ色とりどりとは、かくて永訣となった、残念!
夜間ライトのハレーションは全く気にならなくなった。意識しつつ目を凝らすと、光がバウムクーヘンのようだ。なんだ、オペの後と同じ変わることはない。こっちはかつて感覚が蘇ったのではなく、新しい感覚に脳が順化したのであろう。


中距離の絶妙ボヤケも明瞭に戻ったりしない。気にならないのは、環境順応の証(あかし)。感覚器とココロに分立していた、眼の歩み寄りがもたらしたソフトフォーカス作用によって、わが顔上のシミシワも減り、至近距離で視る美男美女の数は増えた。それでは困る、美容皮膚科的診察の際には、至近距離で観察させていただいているので支障はあるまい。これ、患者さんには「こんなに至近距離でじっくり診てもらえている」と感じていただいているようである、これでいいのだ。



Image created by OpenAI's DALL-E



診察室内は光燦々と明るめである。私も含めて燦々は陰々を凌駕し、明は暗を打ち消して、美は気持ちを和やかにする―――多焦点レンズは100の光を配分して、それぞれの距離に焦点を合わすので全般的にコントラストが低下する。薄暗さが不明瞭さなってはいけない。元気は明るさともなる。


術後半年の検診でも特に異常はなかった。中距離レベルでの”エッジの効いた鮮やかさ”は、やはり戻ってはこない。
けれどもそんな日常も全く気にならなくなった。煩(わずらわ)しかっただけではなく、眩暈すら齎(もたら)した老メガネとは、キッパリとサヨナラできた事が何より幸せである。いろんなことをアレコレ悩んで気を揉むよりも、今あることのありがたさに感謝することから始めればいい。
私にとっての「目の冒険」は<脳内組み替え気づきの旅>であったかもしれないようである。