Dr.MANAの南仏通信?フランスのエスプリをご一緒に…?
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<実録>目の冒険(その2)・術後1ヶ月半のラクダのまつ毛(2024.02.01)


間近とはいえないまでも、そろそろ還暦なるものが目先にちらついてきた。今のうちに若さは消費しておきたい。私は大胆な決断をした―??多焦点レンズを両眼に入れたのである。ハイブリッド視界へ挑戦するのだ。前回でも触れたが、新しい視界の獲得は世界が一新されたかのようである。今となってはシャワーの水が目に入ろうが、アイメイクばっちりで街を歩こうが、それをしないでいようが、なんの痛痒もない。ちょっとしたメンドウは一日四回三種の点眼であるが、これも半年もすれば解放されるのではないかと楽観している。



ある日、気づいた。睫毛が、まるで春の芽吹きのように、グングンと伸びている? 睫毛エクステの常連として、自分睫毛の長さを忘れていたが、間違いない。頻繁・煩雑なる点眼のおかげだろうか、それとも20億個の幹細胞治療の賜(たまもの)か? ラクダのようなつぶらな瞳で、月の光の砂漠を歩いているかのようである。
いま一つの驚くべき変化も現れた。顔の皺(しわ)とシミが、朝露が霽(は)れて清々しい碧空になったかのように消えていく。肌色も明るくなった―??ハレーションを起こしたように。
これは一体どうしたことか。ハイブリッド視界となれば、全身の感覚がリバースエイジングすることになるのか。
眉間の皺が薄くなったのは理解できる。老眼によって間断なく目を細める癖が身についたからだ。眉間の皺だけではなく、顔全面の小皺も薄くなって、シミだって目立たなくなっている。こんなことは計算外の誤算だった。そして、アラ不思議にも、まわりの人たちも若返ってきたのである!


もっとも、これにも秘密のカラクリがある。眼内レンズをして以来、近距離と遠距離のエアポケットである中距離区域の視界が若干ボケる。ぼんやりと微妙に浮き沈みする。他人の顔も自分の顔も、かつてより美しくなっている。視程が定まらないから、本能的に脚色しているのだろうか? 美容皮膚科医としては、この“甘い誘惑”にどう対応すればいいのか、多分に悩ましい。
多焦点レンズに慣れるまでの期間は3ヶ月から半年という。このままドンドン美しい視界の生活が続くのか、それとも、さらなる大飛躍がもたらされるのか。
ヤッター!か、そんなわけないか。よろしく、お見守りください。



Image created by OpenAI's DALL-E


多焦点レンズはまだ高価格といっていい。目をかなり使う専門家の領域かもしれない。私の感想を述べれば、レンズは今一段グレードアップできる。その時こそ保険適用となるべきだろう。自由な視界を保って、月や星のかそけき美しさに陶然となれる権利。それこそ今ある病者が手にする喜びなのである。
この冒険は、まだ続く。